真空放電の実験 先輩に聞く③
2018/07/10
3日目の訪問。前回工作したケーブルを使ってみよう。という先生からの提案。
しかし何故か冒頭先生が持っておられる様々な放射線測定器具を紹介してくださった。
(…なぜこれが高電圧実験と結びつくのか??は後に判明。)
空間線量を測定する際によく使われるのは「はかるくん」だが、レンタル事業は終わってしまった+価格が13万円程度するなどなかなか手は届かなかった。AIRCOUNTERは、はかるくんに比べて精度等は劣るものの、Amazonで3000円程度で手軽に購入できる。
測定値の確定に最大5分ほどかかることと、測定範囲が0.05~9.99μSv/hとやや狭いことに目をつむることができれば、買いかもしれない。
クロス真空計の実験
さて、いよいよ本題。前回制作したケーブルと誘導コイルで本校のクロス真空計に電圧を加えてみる。
なお、本校にあるクロス真空計には
糸状放電 約10mmHg(=Torr)
帯状放電 約5mmHg
しま状放電 約1mmHg
ガイスレル放電 約0.5mmHg
テスラ-放電 約0.1mmHg
クルックス放電 約0.01mmHg
の表記がある。
順に電圧を掛けてみよう!後ろのレバーで切り替えることができる。なお、高電圧を印加したまま切り替えようとする私に、「慌てず誘導コイル止めてからの方がいいよ」とアドバイスをいただいた。確かに!
糸状の放電から徐々に管全体が光るようになってくる。真空度の違いで放電の様子がことなることを知るには十分かも知れない、が…。
糸状放電 約10mmHg(=Torr)
帯状放電 約5mmHg
しま状放電 約1mmHg
ガイスレル放電 約0.5mmHg
テスラ-放電 約0.1mmHg
雲行きが怪しくなってきたのは、クルックス放電
何故か白く光った。本当はもっと黄色く管全体が輝くはず…ではないのか??
「あれー?」と先生の表情が曇る。そして先生曰く「最近の真空管は中国製で、真空度が怪しい場合がある」とのこと。
たとえばX線が放出されるクルックス管と、そうでないクルックス管が存在しているらしい。確証はないが、この「白い色」も真空度の低さによるものかも知れない…と勘ぐってしまう。
そこで、X線が実際に出ているかを確認してみよう。という先生からの提案。
X線の測定・観察
クロス真空計のテスラー放電管とクルックス放電管を外し、誘導コイルで電圧をかけてみる。そして、空間線量を測定してみる…も、双方数値は上がってこない。
デジタルカメラで撮影する訳にはいかないので、デンタルフィルムが感光するかを試してみる。白い面を上にしてクルックス管との間に金属のちょうつがいを置く。10秒ほど電圧をかけてみる。現像液を注射器で注入して現像。なお、フィルムと現像液は医療機関でないと購入できないらしい。知り合いのお医者さんをあたりましょう。
結果は…感光しない。
「クルックス放電(0.01mmHg)」
「テスラー放電(0.1mmHg)」黒い部分は現像時に持っていた指の部分。
やはりX線は出ていないことになる。
その後、先生の持参されたクルックス管(曰く、「古いもの」) 0.1mmHg表記で同様の実験。
約5秒間の照射で…
「先生のクルックス管(0.1mmHg)」
フィルムは感光した。確かにX線が出ているということだ。表記上学校のものより真空度は悪いはず。なのに…。
クルックス管で実験
そこで、「学校に古いクルックス管はありませんか?」と先生から検証の提案。一同で捜索。
異動以来見たことが無かったが、丁寧に探してみると…あるではないか。たくさんでてきました。
羽根車式のものでやってみる。
なお、昔は電子が羽根車を回すとされていたが、現在は熱振動による圧力差で回転すると理解されている。
…ということは、管内には気体が割と残っている(残してある)のではないか、よって真空度はそこまで高くないというのが先生の分析。確かに、空間線量とデンタルフィルムで確認した…ものの、X線は放出されていない様子。
「学校のクルックス管(羽根車)」
続いて十字の極版が入ったクルックス管。みるからに相当古い。電圧を掛けてみると…
美しく黄色に光る。そう、これこそクルックス管。
そして、デンタルフィルムとちょうつがいを置くと、、
「学校のクルックス管(十字極板)」
見事に感光した。X線が出ているということが分かる。おそらく真空度が高いのであろう。
まとめ
やはり先生のおっしゃるように、クルックス管でもX線の出るものと出ないものがある(真空度表記によらず)事は確かであり、表記されている真空度はあまりあてにならない可能性がある。
予算が認められて新しいものを購入できたとしても、古いクルックス管やクロス真空計は大切に保存したいものである。
後日談(クルックス管からのX線は危険か?)
後日十字型クルックス管+AIRCOUNTERで空間線量を測定してみると…
この距離で9.99μSv/h以上。(振り切っている。)
慌てて離れて(約9m)測定してみる。
も、やはり振り切る。ただ、「安心してください。」スイッチを切ればたちまちに空間線量は下がります。
先生の研究、計算によれば…(放射線量 ”μSV/min” は ”μSv/min” の誤記です。)
十字型クルックス管で60cm離れて実験をした場合、年間被曝量の上限とされる1mSvに達するのに要する時間は早くて約1時間ということです。クラス数の多い中学校の理科の先生は、一応記憶に留めておくべきかも知れません。