別棟備忘録4

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天文学と物理学

      2016/01/09

思えば、「ニュートンは万有引力を発見した」という記述は、かなりハードルが高い。彼はいったい何を思い、何を考え、何を発見したのか。
その時代までに分かっていたことは何か?その時代の常識は何か?
そういった知識が不足すると、現在の常識の感覚で捉え、それ以外すべてのことが分かっていた中で、「その発見がだれそれによって、その時代にされたんだ。ふーん。」といった錯覚と短絡的思考に陥りかねない。危険!!
というわけで、天文学から、ケプラーの法則、そして万有引力の着想にいたる部分を、科学史に沿って学習する。というプリントとスライド。
作成に際して、I動高校のS野先生の授業を参考にさせていただきました。
スライド天動説と地動説(右クリック、対象を保存推奨)
プリント?天動説と地動説(右クリック、対象を保存推奨)
宇宙って、どうなっているの?からスタート。
こんな宇宙・世界が
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プトレマイオスによってこうなりました
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まだ、神様とかたくさん書いてあるけど、なにせこの世界が宇宙とか星で構成されると考えたのはすばらしい。
その後、軌道をより正確に予測する必要に迫られると、どうしても理論と実際が合わなくて四苦八苦。モデルもだんだん複雑化する。
で、それをも少し単純に考えられる方法、としてコペルニクスの地動説が登場する。しかし、それは「世界がこうなっている」というよりは、「こうやってモデルを立てると、簡単に星の軌道が考えられる」といった意味合いに捉えられたようである。
(注)実際には諸説とびかっている。コペルニクスは地球は世界の中心ではないと感じながらも、教会にびびって遠慮してしまったんじゃないかな…。
ただし一方で、
「数学の教養のないものの批判には耳を傾けるつもりはない」
という、宗教的な論争を牽制するような発言も残されていたりするんです。このあたりは、要勉強です。
さらに、より正確に現実と合致させようとすると、天動説と同じくらい複雑なモデルとなることも、地動説のネックだった。
その後、星の実際の軌道→モデルを立てる←(影響)聖書・キリスト教
という図式の中で、ティコ・ガリレオ・ケプラーの3者が大活躍。
日本は戦国時代の真っ只中!!
といったように、お話主体で展開します。
ティコは
1.天文を語るには、長時間に渡る精度の高い観測データが必要であることに気づいた
2.それを実行し、肉眼観察としては驚異的な精度のデータを得る
3.宗教的観念ではなく、観測に基づいて、地球中心説をとった
ケプラーは
1.生まれつき目を患っていた?こともあり、正確な観測データを渇望していた。
2.ティコに弟子入りするも、ソリが合わず。(殺した?)
3.宇宙には何らかの調和があるとの考えに基づき、数々の珍説を発表した。
ガリレオは
1.「こうしたら、こうなっている(こうなる)からみんなやってみなよ
と従来の概念の矛盾点を明らかにしたので、嫌らしい説得力があった。
2.望遠鏡をつかって天文学をした、初めての人。のめり込んで失明。
3.「その望遠鏡を送ってもらえないか。」というケプラーの申し出は「忙しい」と一蹴。しかし一方で、お偉いさんにはせっせと謹呈。
(結果、ケプラーはもっと視野の広い望遠鏡を自作。ちゃんちゃん★)
人物を性格づけると、少し物理に「丸み」がでてくるかな…?
おまけは、コペルニクスの公転周期計算法とケプラーの軌道決定法。
宇宙から地球の動きを見た者などいない時代(…今でもそうか。)唯一の手法である「地球から、星を見る」こと、それから得られる情報を手がかりに、公転周期や軌道を探った先人の知恵と努力を体験してほしいのです。
プリント:ケプラーの法則と万有引力(右クリック、対象を保存推奨)
ケプラーの法則と、万有引力への着想。
このあたりも順序だてて。軌道の理論と現実のズレに妥協せず、
1.等速運動を捨て(第2法則)、2.太陽中心を捨て、3.楕円に至った!!(第1法則)
といったケプラーの思考を追体験し、念願であった「宇宙の調和の発見」に至った執念に共感してほしいのです。
ケプラーは第3法則と第2法則から、惑星間に何らかの引力があることに気づきながらも、その定式化にはいたりません。
・重力は2次元で伝播すると考えていたようで…。軌道面ではなく三次元の球殻で考えれば表面積→逆2乗と進めた…かもしれない。
(追記)もう一つ重要なのは、ケプラーは「慣性の法則」を把握していなかった為、円運動の向心力ではなく、運動方向の力を考えていた、という点ですな。
理由の分からない法則となった3法則に次世代の天才、ニュートンが真っ向から挑むという流れで、万有引力の法則の導入として…
プリント:万有引力の法則
質量のある物体は引き合うことと、その公式F=GMm/r2もさることながら、「万有引力の法則の発見とはそもそも何なのか?」という部分にスポットを当てます。
「りんごが落ちたから」ではやっぱりピンとこない。でもあえて落ちるりんごを引き合いに出すならば、一方で「月はなぜ落下しないのか。」との疑問に至る。(ここで、21世紀もいいとこの今日尚「いや、そりゃだって宇宙は無重力だからやんけ」って言われたら、私卒倒してしまうかもしれません。)
別世界で働く別概念であった「重力」と、「惑星間引力」とを同じものとして法則化し、上記疑問を解決したのがニュートンの万有引力の法則、というわけであります。また、それはまったく別の物質からなり、まったく別の法則が成り立つと考えられていた「天上界」と、「地上界」の融合の完成であり…
同時に、地球が世界の中心にある「混沌」の世界であり、そこから外側へ離れるに従って「完全」な世界が存在し、再外縁に神々の世界があるという階層的な世界の破壊でもある訳ですな。
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階層世界における天界は、キリスト教徒にとっても、異教徒にとっても上座。
つまり、世界の中心「地球」はいわば「堕落の場所」であり、そこから離れるほど、完全で栄光のある幸せな世界がある、というのが当時の考え方だった。
だからガリレオは地動説によって地球を「世界の中心から転落」させたわけではなく、むしろ他の星と同等に貴いと言いたかったのだ!!
参考「銀河の時代」 工作舎
ほら、ちょっと面白いでしょ。…ダメか。
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余談ですが、例年物理Ⅱは電磁気分野を先に終わらせてしまうので、この部分は二学期の最後、教科書を進む最後として扱います。
そうです。多くの生徒が文転するorセンターまでって割り切り、全体の物理Ⅱ学習のモチベーションがダダ下がる中、それでも何とか授業するための策でもあるんです。
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2010秋追記:岩波文庫の天文対話(上下)がついに重版されました。(上)から読み進めてみると、最初はアリストテレスに対する批判がつらつらと。「3」という数が完全だとアリストテレスは言うけれど、それって本当?てなお話からスタート。
天文対話は「プトレマイオスとコペルニクスの2大世界体系に関する対話」が題の訳としてより正確といわれますが、単に「地球は動くか」ではなく、アリストテレス体系の根深さと、その既成概念を根底から問い直そうと挑むガリレオの思いが垣間見えるところです。


生徒から呈された疑問

Q.地動説では「地球を動かすものは何かという問題が生じるとありますが、天動説においても例えば「火星を動かすものは何か」という問題は生じないのですか?

A.当時は慣性の法則が完成されておらず(ダジャレではなく)、地上世界では力を加えない限り物体は静止すると考えられていました。一方天上界は「地上とは別の法則が成り立つ世界」なので、力が働いていないものは円運動すると考え、説明されていたのです。したがって、矛盾は生じません。たぶん。

Q.ガリレオが楕円軌道を受け入れられなかったのはなぜでしょうか。

A.…よくわからんです。ただ、ガリレオは「慣性の法則の発見者」ともされますが、初期には「円慣性」を考えていたようです。つまり、力を加えない物体は静止か、円運動をする、と。地球は丸いので、地上での等速直線運動≒円運動というわけです。このあたりで、ガリレオは円運動に対するこだわりがあったのかもしれません。

Q.アリストテレスの天動説のスライドの地球が丸く、経線が書かれ、アフリカ大陸が記されているのはなぜですか?

A.するどい。これはアリストテレス時代の画ではありません。

Q.軌道決定のデータはケプラーのものですか?

A.残念ながら、違います。授業を進めやすいよう、アレンジされたものです。

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